長谷川英祐『働かないアリに意義がある』

海, 夏, ビーチ, 水, 波, 砂, 空, 貝殻, シンク

 

有名な話で、「働きアリにも2割は働かないアリがいる」という話がある。

 

アリのように繁殖を専門にする個体と労働を専門にする個体からなり、コロニーと呼ばれる集団をつくる生物を「真社会的生物」という。

 

そういう生物が大好きな人に読んでもらいたい本。

 

間違えるアリがいたほうが、効率の良いルートを見つけることがある。

 

これはアリの話だが、人間でもこれと同じことが言えるのではないか。

 

みんながみんなまじめな人間だと、迂回路やショートカットはいつまでたっても見つからないだろう。自分よりもできない人にイライラする人は、「自分よりもできない人=ダメな人」ではなく、「自分よりもできない人=自分が絶対に考え付かない近道を発見する人」としてリスペクトしたほうが良いと思う。

 

まじめな人が馬鹿をみるようで、非常に嫌な話だと思う。私も嫌だ。

 

だが、確かに言われていることはもっともである。

 

過労死するアリもいる。

働きすぎて過労死するアリがいる。

 

全てのアリがせっせと働いて、すべてのアリが過労死した場合、そのコロニーは絶滅してしまう。

 

過労死したアリが出た場合、そのコロニーが続いていくのは今まで働いていなかったアリである。

 

全員がまじめに働いてしまうと、人間の社会も続かない。

 

アリのことを語っているようで、実は人間の社会を語っている、味わい深い本である。

 

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マーク・ブキャナン『複雑な世界、単純な法則』

シェル, ビーチ, 海, 夏, 自然, 貝殻

 

オットセイを間引けばメルルーサは増えるか?

オットセイが減れば、オットセイが食べているメルルーサは増えるのか、ということを計算してみると、その因果の道筋は実に2億2500万通りを超えるらしい。

 

その因果の道筋がドミノ倒しのようになったのが地質時代で少なくとも5回ある。

 

その5回とも、地球上の生物全種類の5割以上が突然姿を消すことになった。

 

地球上に現在いる生物の膨大な数はそれぞれに複雑な食物網で連鎖しあっているため、どれがなくなればどれがなくなる、という単純な話ではないのである。

 

ケヴィン・ベーコンの神託、グラフ理論エルデシュ理論などもわかりやすく説明されている。さまざまな理論の導入として初心者向けに面白い本。

 

エルデシュ理論について、「ネットワークが大きくなるにつれて、必要とされるリンクの比率はだんだん小さくなる」とある。

 

弱いつながりがどんどんしなやかな網のようになっていく、そんな世界を想起する。

 

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共著『鳥たちのふしぎ・不思議』(加藤幸子、島田璃里、浜田剛爾、樋口広芳)

貝殻, シェル, ビーチ, 砂, 自然, 海岸, 海洋

 

特徴的な生態を持つ鳥として有名なのはカッコウだと思うが、この本では基本的な鳥の知識から、かなり示唆的な鳥の生態まで読むことができる。

 

たとえば、

群れになる小鳥はだいたい種子食。
単独でいる小鳥はだいたい昆虫食。

これは人間にも共通しているのではないだろうか。

 

穀物食をしている人間と、たんぱく質をメインとする食事をする人間。

 

そう考えると、「糖質制限」という食事療法は、「群れる」という性質を人間から取り払い、「単独でいる」性質を備える人間を多く生んでしまうのではないか。

 

結果、共同体はどう変わっていくのだろう。

 

たんぱく質を豊富に摂取している人種は、穀物食(=コメ食)をメインとしている日本人よりも集団戦術が取れないというのはスポーツの世界でもよく言われている。

 

体形で劣る日本人がチーム戦術で優勝・あるいは上位入賞する、というストーリーを私たちはよく見てきていないか。

 

糖質制限がメジャーとなってあと十数年たったら、日本人の体形は向上し、その代わりにチーム戦術が苦手となっていくのかもしれない。

 

小鳥は生物だ。

 

鳥類と哺乳類の違いはあるといえど、私たちも社会的生物であることは変わりない。

 

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レナード・ムロディナウ『たまたま』

カニ, 海, 動物, 海洋, シェル, 甲殻類, 競馬, クール, 魚介類

 

5番目にnが来る6文字の英単語と、ingで終わる6文字の英単語では、どちらの数が多いと思うだろうか?

 

これは「可用性バイアス」の考え方を説明するときに使われている例。

答えは同じなのに、私たちは「ingで終わる6文字の英単語」のほうが多いと感じがち。

 

このことから、私たちは自分の過去の素晴らしい記憶に保証のない重要性を授けてしまう、それが可用性バイアス。

 

そんな感じで身近な例から概念を説明してくれる本なのですが、これは理系思考が苦手な人にも受け入れやすい本だと思います。

 

3つドアがある。そのうち、あなたは2つのドアを開けることができる。その中の1つのドアを開けると、車がある。そのドアを開ければ車がもらえるが、残りの2つを開けたら車はもらえない。

 

あなたは2つ、開けるドアを心の中で決める。

 

1つのドアを開ける。中にいたのは鳥。

 

残りのドアは2つ。

 

最初に選ぼうとしていたドアを、あなたは変える?変えない?

 

変えて当たる確率の方が上がるんです。

知りたい人はぜひ。

 

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理系本

ー数学

レナード・ムロディナウ『たまたま』

マーク・ブキャナン『複雑な世界、単純な法則』

 

ー生物

長谷川英祐『働かないアリに意義がある』

原田俊治『馬、この愛すべき動物のすべて』

共著『鳥たちのふしぎ・不思議』(加藤幸子、島田璃里、浜田剛爾、樋口広芳)

 

社会

デヴィッド・フィッシャー『スエズ運河を消せ』

小林照幸『検疫官』

岡田尊司『アスペルガー症候群』

 

エッセイ

酒井順子『駆け込み、セーフ?』

 

生活

たけながかずこ『もっと子どもとうまくいく!働くお母さんの習慣術』

大平一枝『もう、ビニール傘は買わない』

 

仕事

加藤昌治『考具』

 

酒井順子『駆け込み、セーフ?』

自然, シェル, 動物, クリーチャー, 水, 海, 砂, 泥, オープン

「死んでもネクタイ外しません」の章

その大事なネクタイを「外しましょう」と政府が言う背景には、「ネクタイ的なものって、もう信用できないですよね」という時代の空気があるような気もするわけで…

 

そんなクールビズも定番になった。が、「ネクタイ的なものを信用できない」という時代の空気は、今おもしろい感じで変化している気がする。

 

それは、どんなに寒くても5月1日になればクールビズが開始される。ネクタイどころか、2020年の5月はまだスプリングコートを着なければ寒い日もあったのに。

 

2020年は新型コロナウイルスが猛威を振るった年でもあった。

 

電車は窓が薄く開けられ、常に隙間風のような寒さがあった。

 

乗客も少なかったから余計に風は身を切った気がする。

 

であるが「クールビズ」は何事もなかったように行われた。

 

ネクタイさえ締めていれば、一生無事に家庭を守れた時代があった。

 

今や、ネクタイを外すクールビズとともにその安心感はなくなった。

 

そして私たちを覆うのは、「状況に応じて判断することができない窮屈な世の中」だ。

 

ネクタイを外して首元が自由になるはずだった時代に、私たちはどこへ向かっているのだろうか。

 

「運転が下手な男って…」の章

結婚というのは、まさに「人生ゲーム」のコマのように、一人の男が運転する車にずっと乗っているようなものなのだ、と。

 

人の運転する車に乗るときは、文字通り生殺与奪をハンドルを握る人に預けるということだ。

 

教習車ではないから、助手席にはブレーキもない。ハンドルを握れるのは車の中で一人だけなのだ。

 

女性から見ると確かに男性の握るハンドルに我が身の安全をゆだね続けるというのは非常に決断がいることであると思う。

 

私が一番怖いと思うのは、結婚も車も同じように「密室」だということである。

 

車の中で行われていることは、窓を開けない限り外には聞こえない。

 

家の中もしかり。

 

最近はスモークウィンドウの車も増えてきたから、車の中も見えないのだ。

 

家庭も車のように走り、ハンドルひとつで行き先を誤り、その先は崖だったり海だったりしてしまうことがなくもないのでは、と考えると空恐ろしい気がする。

 

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